五月二三日(月)快晴
四時半に起きる。朝露が窓を覆っていた。カメラを持って海岸へ。草木の合間の長いコンクリートの階段を下りていくと岩場に出た。水面まではまだ高さがあり、岩の表面は滑らかな所が多いが、高低差が大きい。西側に十六夜の月、東側の空は朱く染まり始めている。月日が海の左手に沈んで行き、右手側から登ってくるということに違和感を感じる。太平洋側の海ばかり観てきたからだろう。ふなむしは久しぶりに見た気がする。よく見ると海老に似て、けなげに走っている。しかしまあきらいなほうだ。こちらが動いていれば一目散に逃げていくのであまり気にならないが、きらいだ。岩に白で描かれた矢印をたどって、東の海が見えるところまで岩場を左右に、上下にと進んだ。岩を一つ超えると、岩場に水の溜まった所があった。幅五mはあるだろうか、空の色を映している。その池を回り込んで、もう一つ高い岩に登る。東の水平線が見渡せた。岩場の上には石材で組んだ段ボールほどの箱があり、口を横にしている。中にはロープの付いた救命用の浮き輪が二つ。岩の下を覗くと釣り人がいた。
東の空を眺めて待つ。遠く低いところに雲が掛かっている。その雲を越えて、初めて見る色の太陽が昇ってきた。赤、朱、橙、紫、どれとも付かない、見事な朝日だ。山形でみた夕陽の色に似ているが、例えようがないな。低い雲を一緒に染めながら、長い間ぼんやりとした美しい陽の色をしていた。
車に戻って朝食。サンドイッチ。間違えて五枚切りの食パンを買っていた。西日本は厚切りが多い。(自分も好みではある。)六時出発。島根県出雲へ。途中「名探偵コナン」の作者の故郷がということで資料館があった。(そのくらい何もなかった。)三時間走ると島根県の大都会松江市を過ぎ、大都会出雲市へ。車を止め休憩、その後読書、記録に数時間。
水田の間を三〇分ほど走り一五時半、出雲大社に到着。周りを走っていると境内の参道入り口に二の鳥居を見つける。一の鳥居は街を下った遙か向こうに立っているが、すごい大きさだ。正面を通り過ぎて西側の駐車場に車を止めた。一〇〇台分の敷地のうち三〇台ほどの人の出だろうか、平日ということもあって、空いているようだ。カメラを二台用意して一六時から参拝。「さざれ石」があった。手のひらほどの石がいくつも集まって、腰の高さほどの岩になっていた。正面から回りたいところだが、本殿脇の神楽殿から回っていった。すぐにあの巨大な注連縄が目に飛び込んでくる。社殿も立派な造りなのだが、それにも増して注連縄の異様な大きさが目に付く。手水、賽銭、二礼四拍手一礼。ここまでの無事に御礼。注連縄を下から見上げる。一本の太さが一mほどもある立派なものだった。それでも素材の一本ごとは通常通り細いものだった。さざれ石と関係があるのだろうか。本殿に向かう。木にくくられた御神籤があまりにも多く、木肌が見えないほどだった。本殿正面。二つの門の向こうにちらりと見える。振り向くと拝殿。ここにも大きめの注連縄があった。本殿とこの拝殿はどちらも、左右非対称の造りになっていた。正面入り口とその小屋根が、社殿の中心より右にずれている。後で知ったことなのだが、真正面に立ってもその社殿の屋根が見えるようにというつくりだそうだ。四の鳥居から出ると、午と丑の像。よく撫でられた痕がある。東には大国主の銅像。膝を着いて背を伸ばし、両手を天に掲げている。視線の先には荒波の上に輝く珠玉の像。人、その他生きとし生けるものすべてに生命の縁を与えるということを象徴しているという。日本をつくってくれたらしい。大感謝。西側には大国主と兎の像。因幡の白兎の話に因み。中央に松の参道が延び、左右に草原、その端から先は林になっていた。就職活動か何か、学生が二人、スーツ姿で参拝していた。その後その草原でしゃがみ込んで何やら話し込んでいる。木々の写真を撮り歩いて回った。立ち上がったその二人の手に、シロツメクサの環飾り。器用な。その他高校生の集団、観光客、母親が写真屋を同行させて娘二人の撮影、初子のお参り、ギターを担いだバックパッカー。その他様々な参拝者の姿があった。自分もその一人だ。三の鳥居をくぐって参道を南に遡っていく。橋を渡ると警備用の門。真っ直ぐな坂道がすらりと延びていた。上りきって振り向くと遠く低いところに本殿が見えた。やはり正面から詣でるべきだったな。壮観だ。再び途中まで引き返し、川沿いを西に歩いて駐車場に戻った。大きなスズメバチには驚いた。
一八時、時報のサイレンが鳴り響く。日の入りが近い。海沿いを走って景色の開けた所を探した。のどかな農地を抜けると渚に出る。そのまま西へ。道の駅「キララ多伎」の広い駐車場と建物、そして陽の入り前の海岸が見えたので車を止めた。三脚とカメラを持って高いことろへ。曇っていて、太陽が見え隠れしているが、空を彩るようで美しかった。太陽が海に近づくと雲に隠れて姿が全く見えなくなったが、水平線に接したとき、雲が晴れて赤く輝く姿が見られた。今日ぐらいは撮るのもほどほどにして、ゆっくり座って眺めようと思ったが、結局撮り続けていた。いつになったらただ眺めるだけでいられるだろうかと苦笑。一九時半、近くの温泉へ。「いちじくの湯」。二一時、再び道の駅に戻って夕食。