六月三日(金)晴
五時起床。曇りがちな東の空が朱々と染まっている。見たこともないような色をしていた。海に向かって三脚を立てて、数枚、撮り始めたところで雲が厚くなり、日の姿も朝焼けも見えなくなった。六時、朝食の支度。牛肉、玉ねぎ、にんにくを炒める。千切りキャベツにトマト、貝割れ、ポテトサラダ。素晴らしい朝食。鍋を振ろうと取っ手に触れると、高温になっていて指に小さな火傷を負い、クッカーが地面に転がり落ちて火を噴いた。危ない。燃え広がらなくて良かった。火事はこれくらい簡単に起こるのだろうと思う。気をつけよう。味は格別。野猿がうろついている。
七時半、寝具を車に乗せて干し、日本の本土最南端、佐多岬へ。駐車場には札幌ナンバーのワゴンが止まっていた。薄暗いトンネルを抜けると、荒々しい木肌と青々と生い茂る葉の、南国情緒漂う植物群。椰子やハイビスカス、蔦の渦巻く森。まるで熱帯の密林のようだった。薄暗い茂みの中を進むと鳥居が現れる。御崎神社。本土最南端の社殿だ。無事の御礼をし、誰もいない軒下の机を見ると、「参拝者帳簿」が開いたまま置いてある。月日、氏名、市区町村、備考。北海道から東京、地元の人など様々な土地から、それぞれの理由で参拝した人たちの名があった。日本一周、縦断、徒歩…。自分も一筆。先に進むと景色が開け、海が見える。歩道は整備中で石が敷き詰められている最中だった。真新しいスロープを辿っていくと男性が下ってきた。札幌の車の方だ。会話の終わりに灯台まで行けるのかどうかと訊かれた。離れ小島に立っている灯台なので、難しいだろう。別れて展望場に立つ。少し先低いところに灯台のある小島、南遠くに屋久島、その左に種子島、そして一際目立つ形をした硫黄島が見える。吹き抜ける風。やっと来たかという思いだった。
回り道で車に戻る。周辺の整備の工事が始まっていた。ご夫婦に「岬へは行けないのか」と訊かれる。一〇時、寝具を積んで出発。三〇分で疲れて休憩。バナナチップス休憩。一時間ほど休んでから再び車を走らせた。鹿児島県の東側、大隅半島の東の海沿いをゆく。道と森だけが続いていた。これが「最果て」というものかと思わせる場所だった。延々と続く山の斜面は余すところなく木々で埋め尽くされていた。端末も圏外だ。一つの豊かさだと思う。これほど生命に満ちている風景は、都会では見られない。そんな景色が長いこと続き、ようやく田園を見下ろす高台まで出ると、かろうじてひと気を感じるのだった。水田の間を走る、緑一色の風景。紫陽花の咲く小さな社の庭で写真を撮った。
一三時半、宮崎県高松海水浴場にて昼食。一四時出発。海岸沿いは海と雲だけが続き、まるで車が空を飛んでいるかのようだった。七本八本、飛行機雲が空で交差している。空港が近かっただろうか。ひたすら北上、一七時半、宮崎市に到着。和菓子と飲み物を傍らに二一時まで記録。その後食料の買い出し。発芽玄米を1kg買った。洗いも浸しも無し、味も栄養も良い、値は張るが便利だ。