六月二〇日(月)雨
眠くなくなるまで眠った。八時。朝食に玄米、玉ねぎの薄切り、秋刀魚の蒲焼き。魚が身体に馴染むような味がする。一〇時に出発、昨夜の続きの道を進む。内浦湾に沿って進む。霧の立ち込める海。一二時、洞爺湖に着いたがまだ小雨が降っていた。湖岸の駐車場の木の下に車を止めて昼食。
食後、洞爺湖とその中央に浮かぶ中島の風景を撮っていると、旧友から婚約破棄の運びとなったという報せが入った。交際歴一〇年の二人だった。今後の両人に活きる経験であることを願う。丁度撮影していた湖畔のモニュメントには「復活」の題が刻まれていた。
一四時出発。洞爺湖の南部から南下し、室蘭へ。途中の山道では、昭和新山と有珠山を結ぶロープウェーが霧の中に垣間見えた。そして遠くに穏やかな姿でそびえる紋別岳と稀府岳が、並んで広い裾野を分けあっている。霧に隠れる山頂に気を惹かれるようだった。車を止めて写真を撮った。下りの坂道に、「ロードヒーティング停止中」という注意の看板を見つける。地中の電熱線か何かで雪を溶かす仕組みだろう。あるらしいと随分昔に知った記憶がある。現地に来てようやく実在するものなのかと実感が沸くのだった。当時の級友が描いた「横一文字の地面、その上に立つ人、下方には電球」のイラストが、記憶の泥流底から沸き返ってきた。
一五時、巨大な白い橋を渡る。白鳥大橋、横から見ればまさに白鳥が翼を広げた姿のように見えることだろう。橋を三分するようにそびえ立つ二組の柱が、あまりに高く感じられて、思わず見上げながら通り過ぎ、渡った後にもそれを振り返った。室蘭市中央に近づく。母恋駅から坂を上っていくとたどり着いた「地球岬」。あいにくの霧で景色など到底見えそうもないが、車を止めて、階段を上がった。「母なる崖の意味」をもつアイヌ語に、漢字を当てて地球岬と呼ばれるそうだ。その名の通り、海側から見たこの絶壁の高さは壮大で、岬に立って眺めれば地球の丸さを感じることができるほどだという。この日の視界は真っ白だった。モニュメントの幸福の鐘を撮って戻った。鳴らすのを忘れていた。
苫小牧に向かって海沿いを進む。白老町に入ると「ポロトコタン」への案内看板。ローマ字の振り仮名は「Porotokotan」。面白過ぎはしないだろうか。実は密かに「北海道面白地名ランキング」を選定し始めてかれこれ三年目になるが、これは首位にランクインする面白さである。アイヌ語で「大きい湖の集落」を表すらしい。その実体はアイヌ民族博物館で、実際にポロト湖に面した立地のようだ。今は名前の面白さだけで十分なので素通りで十分。
一八時を過ぎると苫小牧市に入った。小雨が続いている。次第に風が強まって、真横から降りかかる霧雨になった。一八時半、食事と記録と買い出し。食料を補給して二二時に移動、市内の道の駅、ウトナイ湖緑地公園着。広い駐車場にはたくさんの車が止まっていた。似たもの同士だろう。外灯や自販機の明かりが差し込まないように窓を覆って眠る。