日本一周 [ 9日目 ]
山や地面や街全体が、ゆっくりと下がっていく。
山や地面や街全体が、ゆっくりと下がっていく。
街の防災無線から「遠き山に日は落ちて」が響きわたる。脳裏に刻まれている、幼少時代の記憶を思い起こさせる調べだ。家に帰らねばならないような気分。夕暮れ、海辺の街。何でもない駐車場の風景を写真に収めた。
海上に出たばかりの朝日を撮る。どこに行っても朝がくるのだ。こんなに走っていても逃げ切らない。
打ち捨てられた自転車やバイクが見られる。鳶が一羽、ゆったりと飛んでいた。そして、こんなところでも桜は暦通りに咲いていた。見る人のいない花も、これほど見事に咲くものか。
この日一番の寒さに透き通る空の青。そこに陽光の朱が射してくる。しばらく波の音を忘れていた。カメラを構えて設定を考えていたが、途中でばからしくなった。よく、観ておこう。
さて、この春も桜を撮る。やっと撮る。もう咲いていたのだなと、気後れしていた。難しい花だ。撮ってみれば結局、天気は関係なかった。
もう違和感があった。十年も手に馴染んでいたはずなのに、わずか一週間で
あくび。涙。贅沢な、穏やかなひとときだった。
灯りが遠くに見えるばかりで、その他はもうただ広い、暗い海の風景だった。
荷物の整理を済ませる。撮影の機材、衣類、寝具、調理器具、調味料、書籍