四月十日(日)晴
四時半に起き、カメラと三脚を持って昨日と同じ場所まで上っていく。昨夜の街の灯りに輝く夜景とは打って変わって、朝陽を待つ静かな眺めだった。鳥の声が響いている。東の山の端がだんだんと白く、赤く、なっていって、突然朝陽が見え出す。上半分だけだったのが、みるみるみかんのようなまん丸になった。そのみかんを基点にして、山や地面や街全体が、ゆっくりと下がっていく。特別な色をした陽の光だ。朱と蒼が、上手に、混ざっている。
いつもの空の色になるまでそれを眺めて、車にもどった。街を見下ろす山の斜面にも桜が咲いていた。六時出発。麓で朝食、その後この記録を進めた。八時、岩手県へ向けて出発。三陸自動車道は建設済みの区間だけ解放されていて、無料で通行できる。トンネルなどがまだ開通していないので、それを避けるように国道四十五号線の一般道を走った。十時半、今朝は早かったので道の駅で休憩、少し休んで十一時半再び出発。十二時半、釜石市、買い出し。十三時半、出発。内湾沿いの建物は新しくなったものが多かった。また、土地も更地の部分が目立った。何度か三陸自動車道を通り、十五時、浄土ヶ浜第三駐車場に到着。仮説住宅が十数軒、駐車場に所狭しと並んでいた。
カメラを一台持って、浄土ヶ浜を散策した。案内看板を見て、「展望所」と名の付くところ、五つのうち二つ廻って戻ろうと決め、歩き始めた。針葉樹の林を抜けると崖下にエメラルドグリーンの、深さによっては濃い青の海が彼方まで広がっていた。浜辺の石は白く、対岸の常緑樹の濃い緑との色合いが美しい。
歩いて山間の道を下っていくと、浜辺が見えてきた。「浄土ヶ浜」である。木の葉大の石はすべて白く、透明な海の水の底でも光っていた。浜から数十m先に針葉樹を湛えた白い島々。その間をカモメが羽ばたきもせずに飛んだり、波に揺られたりしている。晴れた空に薄くなびく雲。この光景を見るまでは「大げさな名だ」と思っていたが、「浄土」の名にふさわしい景色だった。清らかで静かで。
もう一つの展望所、御台場展望所からは、木々の間から宮古湾を見渡せた。観光船をカモメが騒がしく追いかけている。過ぎ去った後で、石造りの広めの腰掛けに安座をして眼を閉じた。波音、鳥の声。
帰ろうとして第一駐車場を通ると、案内板で別の展望所も近いことを知り、そちらに向かった。山道を抜けると一本の桜の木と、三階立てほどの展望台。螺旋状の階段が内側にあった。向こうの閉伊崎と宮古湾、静かに飛ぶカモメ。戻り途中、さらにもう一つの展望所の案内を見て、結局そちらも通ることに。西側の竜ヶ崎展望所。夕日が山に近づくころだった。港に浮かぶ船。駐車場に戻る途中、山の斜面にはまた仮設住宅が並んでいる。それを過ぎたところにまた別の散策ルートの案内を見つけて、そちらの山道も通った。結局全部廻った。
十八時、車を浄土ヶ浜第一駐車場に移した。他にも似たような車が数台、夜通し止まっていた。お湯を沸かして夕食。写真の整理をし、早めの二十時半に寝た。