四月二六日(火)晴
六時半起床。食料の調達に向かった。りんご、甘夏、バナナ、酢の物、煮豆、豆腐、スープのもと、和菓子。
朝食。果物の酸味で元気を回復したように感じた。一〇時まで、昨日の出来事を記録した後、能登半島外周に向けて出発。過去の地震後からだろうか、高速道路は無料区間になっている。山の間を進む道路で、景色を見下ろすと昔ながらの田園風景、里山の風景が続いていた。色とりどりの緑の山肌と水が入ったばかりの田んぼ、瓦屋根の家屋。端々まで植物で満ちている。遠くを見やると東側に海が見えた。富山湾、七尾三湾、能登島。霞んでいるがよく晴れている。
一二時、別所岳サービスエリアで休憩。よく整備された真新しい施設だ。果物等で補給をした後、東側に建てられている不思議な形の建物に向かった。空中回廊が、海寄りの高い櫓のような建物に向かって緩やかに上っていく、途中二つの四角柱の中を通って高さを増していた。景観に配慮した作りが美しい。進んで行くと、一つ目の四角柱の下にヤギが数頭飼われていた。末端にたどり着くと三階立てほどの高さになって、海側に曲がると、短いトンネル状の窓のない空間の先に、ガラスの柵の展望デッキ、その向こうには見事な海の風景が待っていた。窓のないトンネル状の一画が、展望デッキからの光を印象付けている。中央に大きな石で腰掛けが一つ。とてもシンプルで印象的、素敵なつくりだ。空気が澄んでいれば、海の向こうに立山連峰も見えるということだった。
能登半島の北端へ向かう。途中道路にメロディーラインがあった。タイヤと地面の摩擦音で旋律を奏でるというものだが、基の曲を知らない上に、登り下りの途中で速度が安定せず、さらに「速度を落としてください」の注意の看板がいくつもあって歌どころではなかった。笑いを狙っているのではないかと疑わしいほどだ。一般道に入り、さらに北東へ。海辺の村に出ると漁船や木造の家屋が並んでいる。風がさわやかで、窓を開けて走った。
一四時、金剛崎に到着。このあたりはいくつか岬があるようだったが、一番看板の目立っているところに引き寄せられて行ってしまった。ずいぶんと商業的な施設に感じた。駐車場で昼食。サンドイッチ、りんご、総菜。美味しい。
一五時にカメラを持って散策。海に臨む、穴のあいた大きな石があった。A4サイズほどの、綺麗に抜かれた穴が水平線を映していた。その隣に謎の小屋が四つ、外に鏡が貼られ、内側が海に迫り出すように、壁もなく開放的だった。床が天井からワイヤーで吊されていて、ゆらゆらと、公園の大きなブランコのように動いた。何なんだこれは!そのほか櫓やお土産店。駐車場の裏手に森があって、ここにも石のモニュメント。奥に海岸に続く下りの道。
次に向かおう。能登半島の北西側の海沿いをゆく。山を下りていくと田園風景、少し進むと海辺の街。不思議なところだ。白い砂浜の海岸が、街のすぐ手前まで迫っていた。海鳥が優雅に飛んでいる。日が西に傾きだして、穏やかな波が差していた。沿岸の道をゆく。登り下りを何度か繰り返す。途中一つ丘を登って行くと、その頂上の向こうに、真っ白に輝く水平線が現れて、次第に海面の幅が増し、まぶしかった。ちょうど展望所があったので車を止めて写真を。高台から見下ろす海、傾く太陽が真正面に光る。うぐいすととんびの鳴き声だけが響いていた。
絶景続きで止まっては撮り、止まっては撮りを何度も繰り返しているうちに、だんだんと夕方が近づいてくる。目指すは白米の千枚田。快適なスピードで、窓を開け放って進むと、ちょうどいい時刻に到着した。駐車場に車を止めて、和菓子で休憩。三〇分ほどしたら、入り日の景色を撮りに出よう。高台からの海、夕凪が終わって、波が西へと進んでいた。
休憩を済ませ、大好きな仕事の時間だ。服装、機材を整えて海際の棚田を撮りに向かう。夕陽の沈んでゆく海だけでも充分なのだが、この千枚田はさらなる絶景だった。大小とりどりの、柔らかい形をした田が、海の低い方に向かって何十段にも続いている。その一つひとつに水が注いでいて、低い方へ低い方へとその水を田同士が分け合っていた。道路も近くにあり、他にも眺めている人々がいるというのに、驚くほど静かだった。田に注ぐ水音だけが続いていた。素晴らしい風景だ。これも写真では伝わらないことだろうと思う。
一通り畦道を眺めて回ると、景色が次々に変化して飽きることがなかった。どこに三脚を立てようか悩んでしまう。他にも三脚を立てたり、座り込んだりして日の入りを待っている人がいた。畦道の半ばに決めて、田と海と空に向けてカメラを据えた。奇跡的に人が誰も写り込まない位置だった。一八時の時報と同時に、蛙の鳴き声が聞こえだして、だんだんと増えていった。不思議だった。構図と設定を整えて、海に近づく太陽、その景色を撮る。千枚の棚田が陽の輝きと空の色を反映している。白い筆で朱と蒼の混ざる空を撫でたように、細く薄い雲をなびかせていた。まさしく絶景だった。シャッターを切り続けた。陽が沈んで誰もいなくなったが、それでもまだ美しくて、写真を撮り続けた。ようやくそろそろ帰ろうかと思って機材を片付けたが、歩き出すとまた景色の変化に気づいて、カメラを向けた。
一九時ごろ車に戻り、金沢に向けて走り出す。もうすっかり夜の道になっているので、海沿いではなく高速道路を使った。途中休憩を挟みながら、二一時半まで走り、高速道路を降りた。降りたすぐのところに温泉を見つけたので、そこで入浴することにした。隣の店で食料を補給し、夕食を取ってから向かった。写真の取り込みも済ませておいた。
二二時半ごろに温泉、サウナが三種類もあって、塩を体に塗るとか、漢方の蒸気で香りがついているだとか、酸素が多いだとか。塩が眼に入ってしみた。いいところだった。二四時頃、三〇分ほど走って海辺の石川県健民海浜公園に向かい、駐車場で車を止めて眠った。