五月五日(木)晴
六時半起床。大規模な駐車場には二~三台の車しかない。朝食を済ませて七時半に出発。室戸岬を目指す。公園の敷地内を進むこと数分。その大規模さを一層感じ取る。砂浜に近い駐車場には車が大挙して止められている。何かと思えばサーファー達が早くから、大規模な浜で波に揺られているのだった。所狭しと並ぶ車にはウェットスーツやサーフボードが見え、波遊びの支度をする人々の数の多いこと。世にこれほどのサーファーがいたのかと思うほどだった。一度経験してみたいものだ。他にも、Tシャツアート展が催されているところや、キャンプを楽しむ家族の姿も見られた。
国道五六号を高知市へ。北東に向かって走る。いい潮風だ。海沿いに逸れると、静かな入り江、浦ノ内湾。対岸の緑と空の濃い青、穏やかな水。入り江を抜けて浜沿いの大通りを走る。途中、浜の長さに驚いて、堤防に上ってみる。一面の砂、波は白く、浅瀬はエメラルドグリーン、遠くにかけて鮮やかに青く、水平線の辺り濃紺、空低く薄い雲が白く、高いところは水色、陽が輝く。足を投げ出して座り込んだ。いい風景だ。日の入りまで座っていたいと思うほど。陽射しが夏を思わせる。
高知市の中心街は栄え、車線も多くあった。中央分離帯に突き刺さる事故車両もあった。ドライバーは無事のようだ。コーヒー屋、五時間。その後買い出し。遅めの昼食後、一八時に出発。今度は南東へと進む道のり。日が暮れると、海岸沿いのつましい外灯が遠くまで見渡せた。残り一〇km、突如室戸岬灯台からの、何秒かの間を置いた光の明滅が届く。陸地を進むにも目印になるかのようだ。
市街地を遠ざかって暗い夜道を進むこと十数分、灯台の強烈な光線が、とてつもないスピードで闇夜の空を、くうを、照らして回る、その梺に出た。言い様のない恐ろしさに身震いがした。想像の及ばぬ極大の暗闇に、永久に伸びるかのような光の筋、一切の遅れも湾曲も許さぬ正確さをもって、長大な直線を振り回して止まることがない。
何度来ても慣れないのだろうか。ーーー四年前、初めて自転車でここにたどり着いた時も、その恐ろしさに、光の届かない数km先まで引き返した。ーーー写真でも言葉でも伝えることができないだろう。
二〇時、岬の駐車場に止まった。夕食に煮込みうどんをつくる。肉、野菜、うどんをゆでて粉末出汁。風のためか、なかなか湯が沸かなかったが、いい出来だった。食べている途中、蛾が飛び込んで溺れてしまった。脆いものだ。供養。
三脚とカメラを持って、海を撮りに海岸へ。石が多い。山の影からぐるぐると灯台の光が見える。海は暗く果てしなかった。波際までの残り一〇数歩がどうにも恐ろしく、足がすくんだ。潮騒を聞くだけで引き返した。
二二時、岬の山の上にあるという展望台に向かって車を走らせる。山の斜面を折り返し折り返し上っていくと、街の灯りが遠くまで、海と陸の境目を示すように光っていた。森の間の道を、狸が数匹横切る。速度を落として進む。上り切ると展望台駐車場。人の姿は絶えて、ない。中央の手洗いの建物が夜通し明かりを投げていた。車を止めて、再び機材を持って、展望台へ。どの程度の道のりかと思い悩んでいたが、五〇mほどの階段だった。上がってみると、周囲に広がる夜の空と森。風が抜けて足がすくむ。漁船の光がかろうじて水平線を示す。先ほどの西側・土佐湾に沿う街の明かりと、反対の東側・紀伊水道にかけて伸びていく街明かり、その両方が一遍に視界に収まった。地図の上でしか知らない陸の形を、実際の姿で捕らえることができる。雄大な眺めだ。目が慣れてくると、海や山の形、雲の動き、レーダー塔の数がわかった。晴れていれば満天の星空が見られるだろう。
二四時、車に戻って眠る。朝陽は見られるだろうか。