五月二九日(日)大雨時々曇
雨が続いている。七時半に起きた。こうも雨が続くと湿気が気になる。天日が待ち遠しい。さて大村公園に「花祭り」の提灯や看板があったのだが、もちろん桜ではないだろう、何の花かと、車で昨夜同様の道を走ってみると、一面に咲く白、青、薄青、濃紺や桃色の菖蒲の花。見事な光景だ。車を止め直し、雨具とカメラを持って、草履で静かに歩く。大村公園内は、土肌の歩道や菖蒲田、東屋や古城の城壁、石垣、池など、歴史を感じさせる場所だった。城跡や船着き場跡、神社もあるようだが、一時間ほど菖蒲の写真を撮り歩いて、カメラを濡らさないうちに車に戻った。公園のすぐ西側には大村湾が迫っている。内湾なのでとても穏やかに見えたが、こんな住宅や学校、公園の真横に海があるとなんだか少し心配になってしまうほど真近だった。雲と水面は真っ白で、海と空の区別がなかった。天空の世界に、波止場や島が浮いているかのようで幻想的だった。
佐賀県に向けて北上。途中食料の買い出しをするとともに、古くなってしまったものを処分した。もったいない。夏の近づいていることを感じる。昔の人々はどうやって食材を保存していたのだろうか。鮮度のよいうちに消費していたのだろうか。先日見かけた船の航海中は、どうやって食べ繋いだのだろうか。大事にしよう。朝食。
佐賀県に入り、田舎道の給油所に立ち寄る。値段の表記が無いので、素直に値段を訊いてみた。スタンドのおじさんも「冗談無しに高いよ」といってこっそり教えてくれたのだが、オイルショックかと思うほどの値段、この旅一番の値段だ。申し訳ないが、と街で入れることにした。「よかよ!少し行ったらもう一つあるけん」と給油口を締めて送り出して下さった。武雄市街地に入る。
そのスタンドのすぐ近く、目的地の武雄市図書・歴史資料館。広い駐車場は二つとも順番待ち状態だったが、少し待つと何とか車を止めることが出来た。一三時、昼食。ご飯、魚、りんご。美味しい。
一四時、ノートや本、ペンやPCを持って図書館へ。木造の館内内装がガラス越しに見え、一〇〇mほどもある施設の端から端まで、書棚と、その中に本がずらりと並んでいる。奥の壁側は吹き抜けの二階になっているが、そこにも本がずらり。素晴らしい眺めだ!オープンテラスや館内の机、カウンター、二階の学習席で、コーヒーなどのドリンクを片手に勉強をする人たち。スターバックスコーヒーや書店、文房具店が館内に併設されており、店内の雑誌から文庫、絵本や写真集などを自由に机に持ち出して閲覧してよいとのことだった。小説「旅のラゴス」に登場した南の土地の図書室を思い出す。なんと素晴らしいのだろう!席の確保で戦々恐々としていたが、コーヒーと甘いものを購入して窓辺の席に着いた。そしてまさにいまこの場所で、この旅の記録や写真の整理などを続けているところだ。夕暮れが迫ると、人は少なくなり空いた席も複数。館内のライトが目立ってきた。落ち着いた柔らかい光が、たくさんの本や、木製の書棚、フローリング、木枠の天井を照らしている。つくづくいいところだと思う。税が多少かさんでも、各地にこのような施設を設けるべきだ。必ず世の将来に資するものとなるだろうから。
立ち読みはしないようにしている。というより、手元に置いている本を読み終えるまでに膨大な時間が掛かるので他の本に本腰が入らない。ということで、館内の本は読まなかったが、たくさんの本のある空間で、コーヒーを傍らに過ごした。この中にも、いずれ出会うべき本が息を潜めて待っていると思うと、早く読み終えて見つけ出したいという気になる。何年も籠もりきりになって読み続けたいと思うこともある。いずれにしても、一字一字深く読み解いていこうと思う。どれだけ多く読んだかは誇らずに。
暗く落ち着いていく館内で、二杯目のコーヒーを飲み終えると二一時。閉館の時刻になった。膨大な書架の並ぶ様を一目見て回って図書館を後にした。空腹だ。夕食、りんご、おそば。最高の夕食だった。二二時に出発、有明海の東の海沿いを南下する。外灯の少ない田園の間を進み、二三時過ぎ、福岡県大牟田の諏訪公園駐車場に到着。湿気がちなシュラフに潜って眠る。