六月一九日(日)曇
四時、青森県のパーキングエリアで起床。朝の空気が冴えている。四時半に出発し、高速を降りて青森市のフェリー乗り場に向かった。多くの車や船の並ぶターミナルに到着して車を降りると、大量の羽虫を轢き殺していたことに気づく。凄まじい数の羽虫が体液でこびりついていた。なむなむ。
乗船手続きは早朝でも受け付けているようだった。七時四〇分の函館行きの便、最後の一台に滑り込んだ。フェリー埠頭では釣り人や散歩の人が語らっている。このあたりは訛が強いと感じる。東の方に下北半島が見えるが、山の上の方は霧に隠れていた。海を覗くと澄んだ青い海水。六時半、車を乗船待機場所に移動させて朝食。片づけが済むと丁度よく乗船券の確認が始まり、その後船尾のゲートから中へ乗り込んでいく。積載重量五〇tの小さな船で、客室は教室三つ分くらいだった。シャワー室もあった。記録や読書、仮眠、「津軽海峡冬景色」の熱唱訓練などをして過ごすこと四時間。甲板に立つと対岸の函館山が見えてきた。風は強く、海水は茶色く濁っている。土砂でも流れているのだろうか。
車に戻り、船首のゲートから走り出せば北の大地、北海道だ。「はるばるきたぜはこだてー」だ。窓を開けると肌寒いくらいの風。夏なのだろうが、ずいぶんと気温に差を感じる。
給油を済ませ、南へ。デパートの本屋に立ち寄り、その後コーヒー屋を探していたら五稜郭タワーが見えてきたので立ち寄った。(普通は逆のような気もするのだが。)施設内のステージで、振り袖の女性方が羽突きをしていた。正月か?何のイベントか知らないまま、二階の席で記録。一五時、昼食。
一六時、函館山へ出発。一七時には一般車両の入山が規制されるとのことだった。函館護国神社へ続く広い参道の道路を過ぎて、上りの道をうねうねと進むと、途中木々の間から、函館市街全土が見渡せる。麓から一〇分ほどで頂上に到着、やたらと傾斜のある駐車場に止めて、まだ明るい景色を観に展望台へ。函館湾に挟まれた陸が、手前に向かって細く伸びているあの特徴的な風景。銀杏の葉を、軸の方からのぞき込んだような末広がりの大地。左右向こうへすらりと延びる海岸線が美しかった。ロープウェーのケーブルが、地上の方へとたわんでいる。風が強い。雲行きが気になるところだが、晴れると思って待つのみだ。果報は寝て待て。昼寝をして待った。一五分待った。そして読書。
一九時、日の入り時になると、これ以上ないほどの霧に覆われて、夜景どころか一〇m先も見えないほどになった。なんてことだ。展望台の施設内は先ほどとは打って変わって、大勢の観光客がひしめいている。大きな観光バスも次々と駐車場を埋めていった。展望デッキには濃い霧が打ちつけるように飛んできている。雨具にフードを被って待っている人がいるが、まるで台風の現地レポートのようだ。テレビ局員も来ているようだが、扉の内側で立ち尽くしていた。窓辺で待つ人や、下りのロープウェーの順番を待つ人、土産物を買う人。残念の雰囲気で満たされている。自分も本を読みながら二時間ほど待ったが、全く晴れる気配がないので下山することにした。この霧で、運転も恐る恐る。ライトを点けようが消そうが、もう霧しか見えない。交通整理に警備員が増員されていたのか、地点ごとにライトで合図を出してくれた。なんとか霧を切り抜けて。霧を切り抜けて、地上に戻り、そのまま北上。進めるところまで進んでおく。小高い丘を通る高速道路から、広い市街地の明かりが見える。
一時間走ると眠くなってきたので、延々と続くかのような道の途中で見つけた駐車場に止まって、雨音を聞きながら眠った。